木村伊兵衛

RANA_sp2006-04-23

小学館の名作写真集の木村伊兵衛が発売になった。
木村は私が若い頃に一番すごいと思っていた写真家なので、これも買い求めた。
中に、秋田で写した「青年」という写真がある。この写真は、はるか昔、中学生の時に百科事典か何かに載っていて、凄い強い印象を受けた。田舎であっても、若者が気宇壮大な将来を考えている決意がにじむような、素晴らしい写真である。まるで幕末の志士たちのような鋭い視線。どうしてこういう写真が撮れるのかと思った。この写真が色気のある女性写真を撮る木村の作品と知ったのは、ずーっと後でした。
 木村の女性の写真はもう定評があるが、なかでも「那覇の芸者」はすばらしい。まず、その現代的な目鼻立ちの美人がすごい。今日でも通用するというか、今の美人が昔の役を演じているかのごときである。購入したばかりのソフトフォーカスレンズで写したらしいが、絶妙のシャッターチャンスで、いたずらっぽい不思議な笑みが時代を超えて迫ってくる。当時の那覇市の写真とか見ると、あの時代にこういう写真が写ることが不思議だ。
 木村の凄さは、どんな年齢の女性も色気をにじませるという才能である。若い女性の肉体美を写す写真家は現代にはごろごろしているが、こういう写真家はいないように思う。ああ、素晴らしいなと思う。
 木村の写真の多くはスナップであり、氏は報道写真としてスナップを捉えている。しかし、今日では、そういう写真を撮ること自体が、いろいろな問題を抱えている。しかし、日本国内では問題が指摘されるようなスナップが、外国で写すと絶賛されるという、矛盾も抱えている。木村の写真は、多くのことを投げかける。その意味で、この本の副題「昭和の日本」は完全に意味を取り違えている。木村が写したのは、時代を超えた人々の営みであり、単なるノスタルジーではない。つまらない副題のおかげで、木村のパリでの作品が一点も掲載されていないのも酷く失望した。